2019年度卒業生・修了生の皆さんへの祝辞を掲載しました。
2020年3月24日
3月24日に予定しておりました化学システム工学科・化学 システム工学専攻卒業証書・学位記伝達式につきましては、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、誠に残念ながら中止とさせて戴きます。
卒業生、修了生の皆様におかれましては、何卒ご理解のほどお願いいたします。
2019年度卒業生・修了生の皆さんに向けた船津公人教授の祝辞を掲載いたします。
2019年度 卒業証書・学位伝達にあたっての祝辞
本日は卒業、修了おめでとうございます。また、ご父兄の皆様にも教員を代表して心よりお祝いを申し上げます。
今日は少し知能の形について触れてみようと思います。
知能には様々なとらえ方があります。これまで皆さんが普通に考えてきた能力の評価軸としての知能、つまり理解力や計算能力といった学力はこれまで通り大切ではあるものの、むしろこれから先の人生では他の評価軸から見た知能の重要性が増していくことになります。
頂きに至る道は様々でも、その頂きそのものを変えてはいけない。知能とは状況に応じてその道を選択していく中で発揮されるものであり、まさに環境適応能力と呼べるものと言えます。希望を捨てず深く高い志を持ちつつ、時に共生を図り、時に争いを避け、友を見つけ、共に頂きを目指すところに知能の真価が現れると思います。
社会に意義あるとされる技術も、一つの材料やノウハウだけでは実現できない。当然他の様々な材料や技術の支え、そして多くの人の協力がなければなりません。システム的思考はここから来るものであって、それを達成するには、所謂物事を俯瞰でき、物事の多様性と可能性を受け入れる大人の感性が必要です。
いみじくも化学システム工学科・専攻の出身の小宮山宏元総長が、「化学システム工学のシステム的思考は大人の学問である」と喝破されたのは(先生方の中にはご存じでない方々もいるかもしれませんが)、まさしく知能ある者が作り上げることのできる学問という意味で傾聴に値する言葉だと思います。
少し話が脇道にそれるかもしれませんが、中国の秦のあとに漢を建国したのは劉邦ですが、劉邦と項羽はライバルでした。二人は何が違っていたかを皆さんは知っていますか?
将才と君才。劉邦はあまり才知に長けていなかったのですが、人を打ち負かすというより人を大切にしてきた。必然的に多くが劉邦を慕うようになっていきました。項羽は将としての才は抜群でしたが、これがあったために人を心から信頼できなかった。自意識が強かったのですね。僅かばかりの才知に溺れ、その結果、人の心は項羽から離れていき、四面楚歌の中で世の中の舞台から消えていきました。
人を信頼し任せることも能力の一つ。つまり「共生、共に生きる」、です。人生には良い時もそうでない時もあります。むしろそうでない時の方が多いかもしれない。そんな中でも人を信頼し任せる。この大切なことを自然と判断できる能力。これこそがまさしく知能と呼べるのではないかと思います。
さて、頂きに至る道に話を戻しましょう。
物事を単眼的・独善的に見たり進めたりすることは誰にでもできます。しかし、一層の高みに至るには、広く深く物事を見渡し、人の協力も得ながら君才をもって到達することが大切です。化学システム工学科・専攻は、皆さんにそういう思想を問うてきたと思います。
話が長くなりました。
本日は一つの大きな節目の日です。おめでとうはその結果に対する賛辞でもありますが、古くは門出を祝う意味が中心でした。
これから先、さらに高い頂きに挑もうとする若き皆さんに、改めて心からおめでとうと申し上げ、私の祝辞としたいと思います。
おめでとう!!
2020年3月24日
東京大学大学院工学系研究科化学システム工学専攻
教授 船津 公人
教授 船津 公人