教員インタビュー 山田 淳夫 教授
蓄電によるエネルギーの自給自足を材料のブレークスルーによって実現する
社会が求める課題解決や機能に対して、必要な化学知を適切に選択・体系化して具体的かつ現実的なソリューションを提示する。化学システム工学科・専攻では、この普遍的方法論を身に付けるための先進的な教育プログラムと、これを実践し社会実装につなげるための様々な研究活動を展開しています。私の研究室では、エネルギーの貯蔵・変換機能を高効率に実現できる蓄電池に焦点を当て、その高性能化と社会受容性を高度に両立するための材料開発を行っています。
人類は、その富を蓄えようと通貨を、必要な食糧を蓄えようと農耕技術を、大量のデータを蓄えようと情報技術を発達させるなど、「蓄える」技術を備えることで、より高いレベルに社会を変革してきました。ところが、エネルギーの最も一般的な利用形態である電力を「蓄える」機能の利用は未だに限定的で、発電した電力の大部分はすぐに消費せざるを得ません。いわば、未だ「蓄える」ことが難しい“ 狩猟時代” のレベルにある、ともいえます。
例えば、今後有効利用が望まれる太陽光や風力等の自然エネルギーによる電力を我々は能動的に制御することはできず、随時不足分や余剰分に対する対処が必要です。また、世界は自動車の電動化に向けて大きく舵を切りました。これは、低炭素社会実現、大気汚染対策はもちろん、移動体のすべてがその大小に関わらず情報ネットワークに組み込まれることをも見越しての流れであることは明らかです。
これらの社会変革を支えるのが「高度電力貯蔵のユビキタス化」であり、蓄電池を社会インフラとして定着させる必要があります。電力をもっと当たり前に「蓄える」ことが出来たならば、化石燃料に頼らずエネルギー自給自足を達成する家庭や社会が実現するでしょう。オイルショック以来定着してきた「省エネルギーこそ美徳」から、健康、快適で人間らしい生活のための「エネルギーのスマートな最大消費こそ美徳」への価値転換は、人類にとっての一つの究極の目標であり理想ともいえます。
その為に、化学システム工学の方法論を駆使して蓄電池をどう変えて行けば良いか?というのが我々に課された命題です。真に社会に受け入れられるためには、性能向上のみならず、元素戦略、コスト、生産性や安全性といった現実問題にも正面から向き合わなければなりません。エネルギー利用形態の変革期にある今だからこそ、“ 材料屋のこだわり”や“ システム屋の傍観” といった束縛から離れ、原子、分子、材料、機能、デバイス、生産から社会までを連続的に俯瞰し最適化を行う、化学システム工学の真髄を発揮する必要があるのです。
PROFILE 山田 淳夫 教授 1990年筑波大学博士課程工学研究科修士取得中退。 同年ソニー中央研究所研究員。 1996年工学博士(物理工学)。 同年-1997年テキサス大学客員研究員。 2000年ソニーフロンティアサイエンス研究所研究室長。 2002年東京工業大学総合理工学研究科准教授。 2005年ボルドー第1大学招聘教授。 2009年東京大学工学系研究科教授。 2012年京都大学元素戦略研究拠点教授を兼任。 2016年より同副拠点長。 固体電気化学、蓄電デバイス工学が専門。 趣味は楽器演奏。 |